アルチュール・ランボー(永井荷風 訳)「そぞろあるき」

アルチュール・ランボー(永井荷風 訳)「そぞろあるき」

蒼き夏の夜や、
麦の香に酔ひ野草をふみて
小みちを行かば、
心はゆめみ、我足さわやかに
わがあらはなる額、
吹く風に浴みすべし。
われ語らず、われ思はず、
われただ限りなき愛、
魂の底に湧出るを覚ゆべし。
宿なき人の如く
いや遠くわれは歩まん。
恋人と行く如く心うれしく
「自然」と共にわれは歩まん。

「そぞろあるき」アルチュール・ランボー(永井荷風訳「珊瑚集」所収)