「批評家失格」小林秀雄

「批評家失格」小林秀雄

 小林秀雄は『批評家失格』の中の「近頃感想」の中で次のように書いている。

「嘘をつくからいけないのだ。己を語ろうとしないからいけないのだ。

借りもので喋っているから種切れになるのである。

身についた言葉だけ喋っていれば、喋る事がなくなるなんて馬鹿馬鹿しい目には決して会わぬ。

借りもので喋るとは言葉への冒涜である。

言葉は思想の奴隷だなどと高をくくっているから言葉に仇を取られるような始末になるのだ。

(中略)

文芸上のリアリズムとは、その核心は、自分という特異な全個体の科学にある。

(中略)

人は持って生まれた処を語る以外何事も出来ぬ。

私は自分の道が危難に満ちている事をよく知っている。」