W/R
書くこと、読むこと、考えること。
 
永井荷風に会ったドナルド・キーン

永井荷風に会ったドナルド・キーン

 

 今日(2月24日)はアメリカ出身の学者、ドナルド・キーンの命日。

 近松門左衛門などの古典から現代文学まで幅広く研究した日本文学者で、

三島由紀夫、安部公房、司馬遼太郎など日本を代表する作家たちとの交友もあった。

 ドナルド・キーンの、日本の文豪たちとの交友などを綴ったものはどれもとても興味深い。

 中公文庫から出ていた「私の大事な場所」という本がある。

 その中にキーンが、永井荷風に初めて対面した際の文章が個人的にとても好きなので引用しておく。

日本にいる外国人は日本人が自分たちをあまり家に招かないとよく言う。
私は幸運にも多くの作家から自宅へ招かれた。
一番忘れ難いのは、永井荷風の家だ。
(中央公論の)嶋中さんが荷風に会う時に私を同伴したのである。
市川に向かい、狭まった道路を歩くと表札もなく目立たないお宅に着く。
私たちは女中らしい人に案内されて中へ通された。
日本人はよく「家は汚いですが」と謙遜しても実は大変清潔であるが、荷風の部屋は腰を下ろすと埃が舞い立った。
荷風は間もなく現れたが、前歯は抜け、ズボンのボタンも外れたままの薄汚い老人そのものだった。
ところが話し出した日本語の美しさは驚嘆するほどで、感激の余り家の汚さなど忘れてしまった。
こんな綺麗な日本語を話せたらどれほど仕合わせだろうと思った。
(ドナルド・キーン「私の大事な場所」)

永井荷風