「先導獣の話」古井由吉

「先導獣の話」古井由吉

 

古井由吉「先導獣の話」読了。

 僕たちがしばしば「狂気」と呼ぶのは、認識の裂け目に生まれた特殊な想像力のことか。

群衆(群集)の中に秘められた殺到の秩序がいつか崩れる時を夢想する主人公。

彼が駅の群衆から主人公が喚起するイメージは水である。

「フロアーにまんべんなく流れ広がって、人を押し退けようとするでもなく、無理に追い抜こうとするでもなく、群のテンポにぴったりと足並みを合わせ、それでいて密集のふとゆるんだところがあれば、すぐに間隙を満たしに行く。そしてやがて階段にさしかかると、流れは静かに淀み、先のほうからゆっくりと傾いていく。まるで苔むした岩の上を平たく滑り落ちる音なしの滝のように」

 水は形を持たないものだ。どんな形の容器にも収まる。

 静かに形を変えうるものとしての群集は何によって動くのだろうか。ふとしたことでパニックを起こす恐れはないのだろうか。

 あるいはその「きっかけ」によって走り出した群集を先導する者とは何者だろうか。